私には、時間がない。

早く帰らなければ。
早く、早く。

心は強くそう希求していた。
にもかかわらず、私はもう長いこと、この見知らぬ城を彷徨い歩いている。


私は幼い時分から、不思議な感覚を持っていた。
勘が鋭かった、と言えば伝わりやすいだろうか。

建物の影に、人々の行き交う中に、ほんのわずかな隙間に、何者かのひどく暗い息づかいを気取ることが多々あった。

それらは大概、私の視線を察知しては隠れてしまうような弱々しい者たちだった。
ただし、完全に消えてしまうこともない。
私たちの生活のすぐそばで、息を殺して、じっとこちら側を眺める存在だった。

しかし、これまで彼らが私に接触してくるようなことはなかった。
私もまた、彼らを詮索するようなことはしなかった。

どれほど言葉が産み出されても語り尽くせない真理があるように、知らぬままやり過ごす混沌があるのだと信じていた。


しかし、今は違う。

私は疑うべきだったのだ。
私たちをじっと見守る隣人が何者で、なぜこの瞳にしかその姿を映さないのか。
彼の者たちが何を企てているのか。

自分には関わりのないものだと認識から閉め出して、蓋をしてはいけなかった。

そんなだから、私はまんまと彼らの世界へ引きずり込まれてしまったのだ。



ドキリ、と心の臓が跳ねる。



音がする。
ずるり、ずるりと、重い身体を引き摺りながら、何者かが地を這っている。

きっと奴だ。
あの禍々しい鱗の怪物が私を探しているのだ。

私は物陰に身を潜め、やり過ごす合間に、そっと鞄から分厚い本を取り出す。
焦げ茶の古びた表紙のそれは、私が持っている唯一の希望だ。

この書冊には、ある術がかけられている。
そのまじないを解いた時、迷宮のようなこの城を脱出する鍵が手に入るという。

俄には信じがたい話だ。
そもそも、私にそれを告げた者の顔を、私はもう思い出すことすら出来ない。

この暗闇は、私の脳から少しずつ生きた証を奪っていく。
気づいたときには、あらゆる記憶が虫食い穴の開いた被服のようになっているのだ。
いまに、私の記憶などすっかり食われてしまうだろう。

しかし、一縷の望みがある以上は、私はそれにすがる他ない。
私には、この書に施された仕掛けを解き明かす以外に道はないのだ。


化け物が通りすぎるのを待ってから、私は城の廊下をひた走った。
同じような扉ばかりが続く長い回廊を、裸足で駆け抜ける。靴はどこで無くしたのか、それさえ覚えていない。

しかし、覚えていることもある。
私はそれを、小さな声で呪文のように呟く。

右、右、左。
左、左、右。

真っ赤な真珠のはめられた扉を見つけたら、すぐさまくぐって、その通りに進むのだ。
忘れてはならない、大切な道標だった。

やがて、永遠に続くのではないかと思われた歩廊に終わりが見え時だった。
鈍い光が私の目に届き、思わず声をあげそうになった。

赤い真珠だ。
突き当たりに現れた不自然に小さな扉には、血よりも暗い、深紅の珠が埋め込まれていた。

見た目より重い戸をどうにか押し開けると、不気味な階段が地下へと続いている。
しかし、進まないという選択は残されていない。

私は恐ろしいのを堪えて、一歩一歩、地の底へ降りていく。
途中、通路が二手に分かれれば、呪文を唱えてその通りに曲がった。

右、右、左。
左、左、右。

最後の分かれ道を曲がったその先に、ぼんやりとした灯りが見えた。慌てて駆けていった私の目に飛び込んできたのは、味のある猫足の箪笥だった。
四畳半ほどの狭い空間に、ぽつんと置かれた木の箪笥。
篝火がゆらゆらと揺れながら、その場所を照らしている。

ふと、箪笥の上を見る。
天板の上が、なにやら四角く窪んでいた。
その大きさに覚えがあった私は、肩にかけていた鞄から、再び魔法の書を取り出した。

やはり、一致する。

胸が騒ぐのを落ち着けるべく、深呼吸してから、私はゆっくりと窪みに本を嵌め込んだ。

途端、箪笥はがたがたと震え始め、篝火は大きくぐらりと揺れた。

何かが、来る。

私がそう感じるより早く、猫足の衣装櫃はその隙間という隙間から白い湯気を放った。
同時に箪笥の裏から機械の腕のようなものが現れ、書物を無闇に弄くり回す。
驚いたのは、今度は書物が、我慢ならないとでも言うように、がばっと起き上がったことだ。

本はぐしゃりと己の体を折り曲げ、紙を丸めるようにして自らを丸く縮こまらせていく。
そして、次にその身を広げた時には、蛹から蝶が変えるように、その形状はまったく別物になっていた。

 薄く歪な五角形へと変貌した冊子は、ばらばらと独りでに頁をめくっていたかと思うと、ある場所でぴたりと止まった。

力を使い果たしたかのように、本はその場でパタリと倒れた。
箪笥もいつの間にか動くのをやめていた。

私はしばらく放心していたが、意を決して本に近づき、もう一度それを手に取った。


そう、これだ。
私が求めていたのは、これだったのだ。


開かれた頁に描かれていたのは、美しい剣。
城の見取り図と、記された小さな印。

この本は宝の地図だったのだ。


宝を探せば、きっと帰れる。
ならば、急がなくては。

どこへ帰るのか、思い出せなくなる前に。


























と、いう夢を見ました(長い!!!)


私はよく、こんな感じで異世界?ファンタジー?っぽい夢を見ます。

空を飛んだり、誰かに死んだり、剣と魔法の世界で戦ったり、あるいはまったく新しい価値観の世界を見せられたり。

こういった夢を見るとき、私の心はスリルと冒険に満ちていて、けっこう楽しいです。
現実では絶対に経験できないようなこともたくさん経験できるので、夢を見るのはとても好きです。

こんなだから中学生までサンタクロース信じてたり、中二病が終わらなかったり、魔法が使える日がいつか来るような気がしてしまったりするんだと思います。
現実って生きづらい(真顔)